完全相対評価に移行してから3年目の108回国家試験の難易度については、前回とは異なり、全体的には易化傾向でした。一方で、得点源になり得る問題と、捨てるべき問題がはっきりと分かれている良試験だったとも言えるでしょう。
易化傾向というのもあり、前回[平均236点(345点満点、他社の自己採点システム調べ)、合格点217点]、前々回[平均236点、合格点213点]と比べると、平均点が254問と大幅に上がり、合格点が235点と、国家試験始まって以来初めて合格点が225点を超えた試験でした。
また、近年の傾向と同様に、科目の枠にとらわれない複数の科目の知識を複合的に使う問題(=融合問題)が数多く出題されました。また、グラフを読み取る問題や計算を要する問題が多く出題されていたため、暗記に頼った勉強では対応できず、苦戦した学生も多かったように思います。一方で、科目の枠にとらわれずに多角的な視点で学習した生徒にとっては、余裕をもって合格できた試験でもありました。
■必須
全体的な難易度は例年通りでした。科目別では、物理、化学に関しては前回よりも難易度が上がりました。特に物理では、前年までの理論問題で頻出の「容量分析」(問4)や「相平衡」(問1)から出題されており、過去問の詰めが甘かった生徒が苦労するであろう問題が多く出題されておりました。化学でも、生薬の基原を問う問題(問8)や、多くの学生が苦手とするカルボニルの反応(問9)など、必須問題にしては難易度が高めの問題が多い印象でした。受験生の多くが最初に目を付ける問題というのもあり、思わぬ問題に出鼻をくじかれた受験生も少なくなかったでしょう。
病態に関しても、新出題のレボホリナート・ホリナート救援療法(問66)やデータ尺度についての問題(問70)が新傾向として目立ちました。薬剤、薬理、生物ではそれぞれ構造式から判断する問題が出題されました。物理、化学、病態以外の分野に関しては過去問の演習が出来ていれば答えられるような問題も多く、例年通りの対策で十分に対応が可能な難易度だったと考えます。また、東洋医学に関する知識を問う問題も2問あり、新傾向を感じさせるような必須問題でした。必須予想正答率は82%と、例年通りでした。
■理論 例年よりも難易度は低く、過去問からの出題が例年に比べると多かった印象を受けました。物理の難易度はやや難程度で、昨年に比べると易化傾向でした。化学の難易度はやや難~難であり、昨年と同様~やや難化傾向が見られました。一方で生物、衛生、法規、薬理の難易度がやや易であり、得点が稼ぎにくい理論問題の中での得点源になり得るような問題が多かった印象です。また薬剤では、例年4-5問ほど出題されていた計算問題が今回は1問と少なかった一方で、薬物動態学におけるADMEなどの基礎的な知識を問う問題や日本薬局方関連の問題が3問連続で出題されたりと、傾向の変化が見られました。病態に関しては、昨年よりも平易な問題が多かった印象です。全体としては、平易な問題や過去問通りの問題が多く、一方でグラフや図から考えさせるような手ごたえのある問題もあり、捨てるべき問題と得点源になる問題とで分かれていた印象を受けました。理論予想平均得点率は66%であり昨年の55%や例年の60%前後と比較すると大幅に易化したと思われます。
■実践 実践問題の傾向は昨年度国家試験と同様に、実践的かつ複合的な知識を問う問題が多い印象を受けました。ただ、実践問題にありがちな「1つの症例に関して問1の答えを用いて問2、3を解く問題」は少なかったため、問1を間違えてしまうとそのあとの問題も間違えてしまう状況に直面することはあまり無かったと思います。逆に言えば問1の解答を手掛かりに問2の問題を解くと言ったテクニックは、今回の試験では使えなかったように思います。特に、物理では理論問題のような難しい基礎の部分を聞いてくる問題が多い印象を受けました。またシダキュアといった新しい抗アレルギーの減感作療法(問217)や、ワクチンに関する問題(問303)も出題され、話題性を感じさせる問題が多く、国試勉強だけではなくきちんと最新の医療情報を身に着けているかが問われた問題もありました。いずれにしても相当量の知識を有している必要があり、日々の勉強や病院等での実習での経験を通して知識を習得し、それらの知識を問題に応用して使いこなすトレーニングが必要です。実務予想平均得点率は74%であり、昨年の65%と比較すると理論と同様に大きく易化しました。
■まとめ
先述しましたが、昨年や一昨年と比較すると易化しており、合格点は例年に比べて20点前後高い結果となりました。しかし、第97回と比較するとそこまで易化しているわけではなく、過去問と類似した問題が例年に比べて多かったのもあり、過去問の復習をしっかりこなしていた受験生にとって有利な試験だったと言えるでしょう。また、実践的な問題や科目複合型の問題も多く、次年度は更に多角的な視点からの出題が予想されます。そのため、薬剤師国家試験で合格するには単なる暗記ではなく、しっかりと基礎知識を付けた状態で応用問題を解く、といった地道な努力の積み重ねを行うことが重要であると思われます。特に、薬学部2,3年次に身に着けた基礎知識は国試は勿論、将来薬剤師となって新たな知識をつけていく上で大いに役に立ちます。毎年のように新しい医薬品が開発され、頻繁に情報のアップデートが必要になっていく医療現場で一人前の薬剤師になるには、薬剤師になってからであっても常日頃からの勉強が重要です。よって、日々の教科書的学習をベースに、それらの知識をうまく繋ぎ合わせ解答を導き出すトレーニングが必要であると思われます。
また、メラビアンの法則で視覚情報がコミュニケーションの55%を占めているといったように、病院や薬局の実習で実際に体験して、学んだ情報は定着しやすく実践問題等を解答する上での大きな武器となります。実際に、今回の試験では実務系だけではなくすべての科目で臨床に則した問題が増えた印象があり、臨床で役立つ薬剤師を輩出していきたい、という出題者側の想いが感じ取れるような試験でもありました。今後もそういった臨床での知識が役立つような問題は増えていくことでしょう。
しかし、教科書的暗記の勉強法は基礎を作るために絶対不可欠なものなので、決して蔑ろにすることなく、それらの知識をベースとした更なる能力向上が必要であるということを忘れないで頂きたいと思います。知識不足の状態で応用問題に挑戦しても正解を導くことができませんし、充実した病院薬局実習を行うことは出来ません。このようにやはり薬剤師国家試験の勉強を始めるにあたっての最優先事項は知識の定着です。早期の知識定着を図り様々なタイプの応用問題に挑戦することで臨機応変に解答を導き出す力を伸ばすことができると思います。
最後に、薬剤師国家試験に合格することはゴールではなく、あくまで一人前の医療人になるためのスタートラインであり、国試に合格するまでに行った努力の積み重ねは、必ず薬剤師になってからも役に立ちます。来年以降に受験する皆さんには、ぜひとも将来のビジョンを描きながら国試勉強に向けて頑張ってほしいと思っております。