完全相対評価に移行してから2年目ですが、難化傾向が見られます。今後の国試ではより実践的で深い知識が問われてきそうです。模試との難易度も大差が無くなってきました。
本年度の国家試験は完全相対評価に移行した2年目でした。新カリキュラム2年目なので、今回の試験は難易度的には、難化すると予想できました。
結果、予想通り昨年と比較した難易度で言うと、やや難化、例年と比較しても難しめの難易度であったと言えるでしょう。
完全相対評価ということもあり、現時点での合格ボーダーは不明ですが、昨年度と比較しても難易度差の大きな乖離は見られないので213〜217点辺りがボーダラインになるのではないかと予想しています。
また今年の特徴としては、科目の枠にとらわれない複数の科目の知識を複合的に使う問題が多く出題されました。また、グラフを読み取る問題や計算を要する問題が多く出題されていたため、単に暗記に頼った勉強では対応できず苦戦した学生も多かったように思います。
■必須
全体的な難易度は例年通りかやや難しいレベルでした。科目別では、物理に関してはpH計算や溶解度積といった高校の知識で解けるような問題が出題されました。計算は非常に平易なものでしたが、計算方法を覚えている学生とそうでない学生の間で大きな差が付く内容でした。また活量やイオン化法といったマイナーな内容が多く難しく感じた学生も多かったと思います。また病態に関しては、組み換え体医薬品や箱ひげ図といった対策を後回しにしてしまいがちな分野の問題が出題されたため、手が止まってしまう学生もいたかもしれません。化学、生物、衛生、薬理、病態、法規、実務に関しては過去問の演習が出来ていれば答えられるような問題も多く、例年通りの対策で十分に対応が可能な難易度だったと考えます。必須予想平均得点率は80%であり昨年(82%)と比較するとやや難化していますが例年(約80%)と比較すると同程度の難易度であったと思います。しかし大規模移行年度である第97回の88%と比較すると本年度は80%となっており難化傾向が見られます。
■理論
例年以上に難易度は高く、積極法で正解を導くのは相当広く深い知識が必要であったと思います。特に物理では図を用いた平衡問題と分配係数の問題が出題されましたが、正しい理解を必要とするため正答率が低くなることが予想されます。分析の範囲は全体の問題文の量は少なくなったので難易度はやや易化しましたが、定性反応とNMRは難しい内容でした。また生物では昨年同様実験問題が出題されており、与えられた問題文や図を正確に理解する必要があるので、緊張状態の試験中は難しいと感じる学生が多いと思われます。薬剤に関しては、2-コンパートメントモデルやwell-stirred modelといった薬物動態学の中でも対策がおろそかになりがちな範囲の問題が出題されたため、薬物動態学が苦手な学生にとってはかなり難しい内容だったように感じます。化学、生物、病態、法規、衛生、薬理に関しては例年通りの難易度だったと思いますが、深い理解を必要とする問題も多かってので、暗記一辺倒の学習では苦戦してしまうでしょう。理論予想平均得点率は55%であり昨年の59%や例年の約60%と比較するとやや難化したと思います。また大規模移行年度である第97回の74%と比較しても本年度の得点率55%は難化傾向が見られます。
■実践
実践問題の傾向は昨年度国家試験と同様に、実践的かつ深い知識を問う問題の連続でした。ただ1つの症例に関して問1の答えを用いて問2、3を解く問題は少なかったため、問1を間違えてしまうとそのあとの問題も間違えてしまう状況に直面することはあまり無かったと思います。逆に言えば問1の解答を手掛かりに問2の問題を解くと言ったテクニックは、今回の試験では使えなかったように思います。またパルスオキシメーターといった話題性の高い臨床分析技術や、新傾向からDPC制度の詳細に関する問題が出題され、模擬試験の復習をきちんとしていたかどうかもカギになりました。いずれにしても相当量の知識を有している必要があり、日々の勉強や病院等での実習での経験を通して知識を習得し、それらの知識を問題に応用して使いこなすトレーニングが必要です。実務予想平均得点率は65%であり昨年の66%と比較すると同程度かやや難化、例年の約65~70%と比較すると同程度の難易度であったと思います。しかし大規模移行年度である第97回の77%と比較すると本年度の得点率65%は難化傾向が見られます。
■まとめ
先述しましたが、昨年と比較するとやや難化、例年と比較しても難しめの難易度であり、第97回と比較すると大きく難化していると言えます。また、実践的な問題や新傾向の問題が増え、次年度は更なる難化が予想されます。本年度の傾向的にも昨年と同様に単なる暗記や教科書的知識だけでは通用しない問題が多々見受けられました。これは、臨床現場が即戦力となる薬剤師を求めている証拠です。よって、日々の教科書的学習をベースに、それらの知識をうまく繋ぎ合わせ解答を導き出すトレーニングが必要です。また、メラビアンの法則で視覚情報がコミュニケーションの55%を占めているといったように、病院や薬局の実習で実際に体験して、学んだ情報は定着しやすく実務系の問題を解答する上での大きな武器となります。ただ教科書的暗記の勉強法は基礎を作るために絶対不可欠なものなので、決して蔑ろにすることなく、それらの知識をベースとした更なる能力向上が必要であるということを忘れないで頂きたいと思います。知識不足の状態で応用問題に挑戦しても正解を導くことができませんし、充実した病院薬局実習を行うことは出来ません。このようにやはり薬剤師国家試験の勉強を始めるにあたっての最優先事項は知識の定着です。早期の知識定着を図り様々なタイプの応用問題に挑戦することで臨機応変に解答を導き出す力を伸ばすことができると思います。